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僕等の世界

僕等の世界

海、悲鳴


家を出て学校へ向う電車の中、敦は頭の上に貼ってあるチラシに目を奪われた。
綺麗な海。何処か外国の海なんだろう。日本なんかとは比べモノにならない程美しい、透き通るような青。


「海、行ったこと・・・あったかな」


自分の記憶力が悪いのか、海へ行った記憶など微塵も無い。もしかしたら、本当に行ったことが無いのかも知れない。
そんなことを考えていると、敦は無性に海へ行きたくなった。こんな綺麗な海でなくても、“海”というモノに近付いてみたかったのだ。


「山崎です。2組の・・・はい、お願いします。はい・・・」


電車をいつもより3つ前の駅で降りた。この駅からは少し離れた場所に港がある。歩いても、着くまでそう長くは掛からないだろう。
学校へ休むための電話を掛けた。
普段『良い子』の敦にとって、仮病で休みなど初めてのこと。自分とは反対に学校へ向かう学生達。その波を掻き分けて敦は海へ向かい歩き出した。









港に近くなると大きな倉庫がいくつも、まるで迷路のように建ち並んでいた。細い道の間から光が見え、敦は歩く足を早めた。道を出ると急に潮の香りがきつくなり、光が眩しくて目を細める。
ザー・・・ザー・・・と繰り返される心地良い音。
海に着いたのだ。


「これが・・・海。・・・デカイな」


敦は笑った。
初めて見た海の大きさと、初めて感じた・・・自分の小ささに。
堤防から身を乗り出して手を伸ばし、指先を水面に付けると青いと思っていた海が透明だと改めて気付いた。元々は水なのだから透明なのは当たり前なのだが、これ程まで青いと本当に色が付いているのではないかと、微かな錯覚を覚えた。

ほんの数分の事だったが、敦自身にとってはとても満ち足りた気分だった。


「また来よう・・・」


そう呟きながら海から目を離し、元来た道を戻る。
細い倉庫と倉庫の間の道を、学校には休むと言ってしまった為、家に帰ることも出来ない敦は、今から何をして時間を潰そうか、と考えながら歩いていた。


「ぐあぁぁっ!!!」

「ッ!?今、のは・・・?」


倉庫の迷路から抜け出ると、いきなり何処かから男の声が聞こえた。
それは今まで聞いたことの無いような人の声。

苦痛な悲鳴。

刹那、無意識に敦の足は動いていた。
倉庫のある方へと走り出し、段々と速さは加速していく。


急げ急げ急げ急げ!!!


頭の中で、誰かが叫んでいる。


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